うたかたの断章

終焉とおはなし

 ――世界はもうすぐ終わるんだ。
 
 無機質な白い部屋で、僕は君にそう告げた。
 本当は誰にも言えないはずの秘密を、そっと告げていた。僕自身、意識しないままに。
 すると、君は乾いた唇を小さく歪めて、こう言った。
「そんなことはどうでもいいんで、お話しをしませんか? 折角、久しぶりに会えたんですから」
 どうでもいい、と来たものだ。
 僕は思わず小さく舌打ちしてしまった。
 君は昔からそうだった。人懐こい笑顔を浮かべて、誰に対しても親しげに振舞っているように見せて、その実、誰の話も本気で聞いちゃいない。
 いや、話はきちんと聞いているのかもしれない。僕がすっかり忘れてしまったようなことを覚えているのは、君の役目だったから。
 ただ、君が目にして、耳にすることになった誰の物語も、君の心を本当に動かす材料にはならない、だけで。
 それは、世界が終わるシナリオがやってきたとしても、何一つ変わらないに違いない。
「……君なら、そう言うと思ったけどさ。全く」
「 『僕には理解できない』……ですか」
 僕の言葉を奪ってくつくつ笑う君は、僕の知ってる君だ。僕と同じ顔をしているのに、僕とは全く違う心を、世界を抱えた君。僕と同じように造られたはずなのに、僕の歩いている道に背を向けて、道なき道を歩み続けた君。
 でも、同時に、今ここにいるのは僕の知らない君でもある。寝台の上に横たわる長く伸びた四肢も、すっかり大人びてしまった顔立ちも、骨と皮だけになってしまった体も、僕は知らない。
 君は、死人のような顔の中で、唯一瑞々しい光を湛えた瞳で、僕を見上げた。
「何からお話ししましょう? 君には、話したいことがたくさんあるんですよ」