そこに現れた君は、いつもと全く違う姿をしていた。
長かった髪をばっさりと切り落とし、いつもどこか曖昧な笑顔を浮かべていた唇を、硬く引き結んでいるその顔は。
皮肉にも――鏡で見た僕の顔に、よく似ていた。
僕が普段身に着けていたものと全く同じ視力補助装置を人差し指で持ち上げて、背すじをぴんと伸ばした君は、
「いきます」
よく響く声で、宣言する。
何も入っていない、真っ白な箱に向かって。
「もう、弱音は吐きません。叶わない夢を追うのも、今日で終わりにします」
僕も含めた誰もいない、静寂の空間で、君だけが声を上げる。
「泥まみれになっても、這い蹲っても、滑稽だと笑われても、どんな恥をさらしたって」
そんな君は、僕が見たこともない顔をしていて。
「それでも最後まで、いきます。いきて、いきます」
行きて、生きて、そして――逝く。
それが、僕と君のあり方だった。造られたときから、そう定義づけられた僕らに出来る、唯一だった。
つくりものの僕らに与えられた時間は、あまりにも短い。僕は、それを疑問に思ったこともなかったけれど……僕よりも賢い君は、ずっと、ずっと、悩み続けていたことだけは、わかっている。
僕らが生きる意味。僕らが逝く意味。その全てを。
「だから」
一旦言葉を切って、ひゅっ、と息を飲んだ君は……今にも泣き出しそうな顔をして、まるでそこに僕がいるかのように、コンクリートの天井を仰いで、叫んだ。
「見ていてください! どうか、ここで!」
わかったよ、たった一人の僕の片割れ。
君が、それを望むなら――僕は。
うたかたの断章