楽園のあちこちを旅して回る一人の旅人の噂は、静かに広まっていた。
見た目は何ということもない、どこにでもいるような青年だ。
彼は遺跡を荒らす墓暴きでもなければ、悪党を追い詰める首狩りでもない。言葉通り物見遊山を目的とした「旅人」であり、それ以上でもそれ以下でもない。
だが、彼は自然と人の間で噂に上るようになった。
曰く、彼が通った道には涼風が舞う。
曰く、彼に触れられた植物は生気を取り戻す。
曰く、彼の前には闇すらも身を退ける。
曰く、彼の目には何もかもが見えている。
曰く……彼の友は楽園全ての妖精や精霊である。
故にかの旅人は故郷の名を取ってこう呼ばれる。
『レベンタートの妖精使い』……と。
レベンタートの妖精使い