うたかたの断章

諦念をはんぶんこ

 君に何が起こったのかは、最後までわからなかった。
 ただ、僕が知っているのは、僕が旅に出ている間、君ともうひとりのきょうだいの間に何かがあって、そのきょうだいが消えたということだけ。
 それから、君は君らしくもなく、ずっとぼうっとしていた。訓練をサボるわけでもなく、途中でふらりと消えてしまうこともなく、ただただ、そこに突っ立っていた。
 でも、ある日、突然君は、俯いたまま僕に言った。
「どうして、君と僕は双子なんでしょうね」
「どうしたの、突然」
「どうして、君と僕は同じ遺伝情報を持ってるのに、同じ人間になれないんでしょうね」
「違うに決まってるだろ、僕と君は違う体を使ってる別人なんだから。でも」
「でも……何です?」
「二人いるのは、お互いに欠けてしまった部分を補えるからだと、思ってる。別に、それは僕ら双子に限ったことじゃないけど」
 僕らは、たくさん造られたうちの一つずつでしかない。それぞれの役割は違うけれど、大きな目で見れば、同じシステムを形作るパーツの一つずつでしかない。
 それでも。それでも。
「僕は、きっと君の言うことが理解できない。君は、僕よりもずっと賢くて、視野が広くて、僕の思いもよらないことを考えてるから。でも、僕でも話くらいは聞ける。辛いことがあれば、背中くらいは貸す。それくらいしか、出来ないけど」
 僕にとって、君は、大切なひとだった。別に理由なんかない。ただ、君に、ここにいてほしかった。今までどおり、これからもそうであってほしかった。それが当たり前であってほしかった。僕にとって君は、そういう存在だったのだ。最初から……最後まで。
 そして、顔を上げた君は……僕の知っている笑い方で、笑った。
「君が、そう言ってくれるから、僕はきっと、ここにいられるんでしょうね。諦念に囚われずに、いられるんでしょう……そんな気分です」
 両腕を伸ばした君は、君よりも大きな僕の体を抱きしめる。僕は、抵抗もせずに、そんなちいさな君を見下ろしていた。僕が知っているどの君よりも、ずっとちいさく見える、君を。
「ありがとう。僕はまだ、ここにいていいんですね」