by admin. ⌚2024年8月3日(土) 08:35:00〔116日前〕 <2537文字> 編集
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる並行世界。
未知の領域を探査すべく選ばれたのは、刑の執行を待つ死刑囚Xであった。
目に見えない命綱だけを頼りに『異界』に飛び込んでいくXと、彼を観察する「私」の実験と対話の日々を綴る連作短編集。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
目には見えない命綱ひとつで『異界』へと潜っていく死刑囚X。
今日も「私」はディスプレイを通して彼の視点を共有する。
……時には『異界』を垣間見、時には他愛のない言葉を交わす。
Xと「私」の、特に名前のない日々を綴った短編連作。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる平行世界。
未知の世界を観測すべく選ばれたのは、刑の執行を待つ死刑囚Xであった。
目に見えない命綱だけを頼りに『異界』に飛び込んでいくXと、彼を観察する「私」の実験と対話の日々、もしくは、三十一の忘れられない道行き。
※綺想編纂館(朧)様( @Fictionarys )の2022年7月の企画『文披31題』の参加作品です。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる並行世界。
この国の片隅で、未知の世界を知る者たちの『異界』探索プロジェクトが密やかに進んでいた。
プロジェクトメンバーはリーダー、サブリーダー、エンジニア、ドクター、新人の五人、国からの監査官が一人、それから異界潜航サンプルが一人。
そんな少数精鋭のプロジェクトは、今日もつつがなく、あるいは少しの事件とともに進んでいく。
これは、歴史には語られない彼らの、『異界』と彼ら自身にまつわる三十と一の物語。
※綺想編纂館(朧)様( @Fictionarys )の2023年7月の企画『文披31題』の参加作品です。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる並行世界。
本来「あり得ざる」それを観測する異界研究者たちは、今日もそれぞれの姿勢で『異界』と向き合っている。
『無名夜行』番外編、最初の異界潜航サンプルXが去った後の、プロジェクトメンバーたちの「残響」を描いた連作。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
全てが「霧」から生まれいずる世界にて。
世界の最西端、辺境の地で燻っていた「俺」……最強最速の翅翼艇『エアリエル』を駆る「救国の英雄」ゲイル・ウインドワードは、遠い日に目指した「青空」の色を持つ人工霧航士、セレスティアと出会う。
新たな相棒との日々と迫りくる過去、そして霧の向こうの「青空」とは。
真と偽の果て、青空目掛けて霧裂く空戦SFファンタジー。
霧世界報告 / ファンタジー / SF / 空戦 / 異世界
ここではない世界。万物の根源が「霧」である世界。
女王国首都の雑誌社に所属するネイト・ソレイルは、今日も怠惰で奇矯な作家カーム・リーワードの首根っこを引っ掴んで仕事をさせる。
そうでないと、きっと、誰の手も届かないどこかに行ってしまうから。大事なことを、全部、全部、取り落としてしまうから。
女神歴九六九年、帝国との戦争が終わって五年。
これは、落ち着きのない作家先生と、そんな先生を追う新米担当編集者の他愛のない日常の物語。
霧世界報告 / ファンタジー / SF / 日常 / 異世界
「ごきげんよう、叔父さま」
霧深き女王国の果ての果て、雨の止まない土地にて。
監獄塔『雨の塔』の面会室で「私」が出会ったのは、姪を名乗る少女アレクシア。
彼女は完璧な笑みを浮かべて言う。
「叔父さまの知恵を借りたい」――と。
犯罪者の「私」と面会者のアレクシア。
本来なら交わるはずのない二人による、安楽椅子探偵ミステリもどき。
霧世界報告 / ミステリ / ファンタジー / ふしぎ / 異世界
ノンシリーズものの短めなお話をまとめています。
ジャンルは話ごとにファンタジー中心にSF、現代、メタフィクション風など雑多。気が向いたら増えます。
SF / ファンタジー / ホラー / コメディなど
時計うさぎの不在証明 / 甘味組曲 / さよなきどりはなかない /
by admin. ⌚2024年8月3日(土) 08:35:00〔116日前〕 <2537文字> 編集
それは、いつもの、下らない殺しの仕事。命の終わる瞬間だけ鮮やかに咲き誇る、ちいさな花を刈り取る、簡単なお仕事。
そう、思っていたのに。
握った刃を、振り抜いたその瞬間に――咲いた、大輪の花。
その、燃えるような、あかが。
目の奥の奥に、焼きついて離れない。
離れないのだ。
「……まさか、お前がこうも見事にやられるとはな」
外周の闇医者は、溜め息混じりの言葉を吐き出す。
医者の前に座る黒髪の男――月刃の目は、はるか遠くを見ていて、焦点が合っていなかった。医者の呆れ声も聞こえていなかったに違いない。そして、彼の利き腕である左腕は、二の腕の辺りから綺麗に切り落とされていた。
「誰にやられた」
その問いに、初めて月刃は虚空に浮かばせていた視線を医者に戻し――何故か、うっすらと笑みすら浮かべて答えた。
「シスル、と名乗っていました」
シスル。遠い時代に滅びた花の名前だ。月刃の脳裏に描かれるのは、全身を黒という色で覆い隠し、青ざめた禿頭に羽を刻んだ異形の青年だった。その腕は、否、身体のほとんどは、血の通わぬ鋼であったことを思い出す。
「シスル……例の、変人博士の『作品』だろ。護衛に関しては一流と聞くが、お前をどうこうできるほどの腕とは思っていなかったよ」
月刃といえば、外周どころかこの国で裏の世界に首を突っ込んでいる者ならば、知らない者はない殺し屋だ。生きているものを「殺す」ことにかけては超一流の彼が、獲物を仕留めそこなうどころか、致命的ともいえる傷を負うとは、長年の付き合いである医者も想像できなかったに違いない。
しかし、月刃は、包帯を巻かれた腕の付け根を右の人差し指でなぞりながら、恍惚とした表情で唇を開く。
「真っ赤な、花でした」
「……花? ああ、お前には花に見えるんだっけな」
医者は、月刃が持つ特殊な能力についてもある程度の理解を持つ。だから、月刃の呟きが何を意味していたのかも、すぐ察したに違いない。
超感覚の一種と月刃やその周囲は認識しているが……月刃の金色の瞳は、本来目には見えない人の「命」を「光」として知覚している。今この瞬間も、相対する医者の姿に被さるように、淡い光が見えている。
普段は月刃の目にも細々としか見えない光だが、それは、命が失われる瞬間に、失われることに抗おうとするのか、それとも最後の最後に輝きを見せつけようというのか……とにかく鮮やかに輝く。まるで、暗闇に色とりどりの炎の花が咲くように。もちろん、その花の色や形に、一つとして同じものはない。
月刃はその輝きに魅せられ、輝きを見たいと望むからこそ人を殺す。細々と光を放ってただ「生きているだけ」の人間に、何一つ価値はない。彼にとって、人の価値とは「生から死へ向かう瞬間の、一度だけの輝き」のみに見出されるものだった。
……だが。
「……咲いてるんですよ。今も」
ぽつり、と。月刃は呟いた。
「生きていながら、咲いている。咲きながら、生き続けている……いや、死に続けている? とにかく、ずっと咲いているのです。赤く。赤く」
「そんな奴が、存在するのか」
「ええ、あの失われない輝きは、まさしく常春の花。その花の美しさは、私にしかわからない。ああ、これを運命と言わずして、何と言うのでしょう!」
気分が昂ってきたのか、芝居がかった台詞回しで言い放った月刃は、細めた瞳の奥に、ねっとりとした感情を秘めて囁く。
「見たい。見たいですねえ。あの花が散る間際の輝き。私はきっと、あの花を見るために生まれてきて――殺してきたのでしょう。そう、今になってわかりましたよ」
医者は蒼白になりながら「月刃」と彼の名を呼ぶ。どうしてそのような顔をするのだろう、と月刃は不思議に思う。自分は、こんなに愉快な気分だというのに。
「ああ、そうそう……一つね、あなたにお願いがあるのですよ」
ゆらり、と。立ち上がった月刃は、金の瞳で、自分が持ってきた「荷物」を示す。布に包まれたそれを紐解いてしまった医者は、中に入っていたものを見て絶句する。
そんな医者の背中に投げかける月刃の声は、深い、深い愉悦に満ちていた。
「それを、私のものにして欲しいのですよ。できますよね?」
かくして、月刃は再びかの青年と対峙する。
全身を覆う黒衣。露出した頭から顎にかけては酷く青白く、骸骨のような印象すら受ける。月刃が求める「生」のイメージからは、全くもってかけ離れた見かけだ。
けれど、月刃は知っている。
その青年の背中に、今もなお、鮮やかに一輪の花が咲き誇っていることを。
「お久しぶりですねえ、お花ちゃん?」
月刃は、身構える黒衣の青年に向けて、手を差し出す。
あの日失ったはずの、左の腕を。
服から覗く肌の色は、月刃のそれとは異なっている。白磁のような白さと、折れそうなまでの細さ、そして見かけに反したしなやかな強靭さを誇る腕は――まさしく、目の前に立つ青年、シスルのものだった。
「見てください、お花ちゃんの腕を移植してもらったのですよ。これで、いつでもお花ちゃんと一緒ですよ。まだ、左腕だけですけどね」
言って、指先を口の中に含む。鉄錆の味がするのは、先ほど一人殺してきたからだろうか。それとも、この腕が本来持っている味なのだろうか。わからないけれど、愛する者の一部が己のものとなり――それを当人の目の前で犯す快感は、何にも代えがたい。
「おいおい……勘弁してくれよ?」
おどけた口調ながらも、シスルの表情が露骨に引きつり、視界に映る炎が揺れる。その揺らぎが示すのは「怯え」。それでありながら、背に咲き誇る赤は全く色を薄めることも、萎れることもない。
どこまでも折れることなき生への渇望。その望みを受けて咲き続ける花。
それでこそ。それでこそ、自分が求める「至高の花」だ。
いつか、いつか、その全てを手に入れてみせる。まだ自分が見ていない咲き方を、この目に焼き付けるために。
愛しい左の指先に舌を這わせ――月刃は、壮絶に、笑んだ。
「さあ――|愛《コロ》し合いましょうか、お花ちゃん?」