by admin. ⌚2024年8月3日(土) 08:36:43〔116日前〕 <1684文字> 編集
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる並行世界。
未知の領域を探査すべく選ばれたのは、刑の執行を待つ死刑囚Xであった。
目に見えない命綱だけを頼りに『異界』に飛び込んでいくXと、彼を観察する「私」の実験と対話の日々を綴る連作短編集。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
目には見えない命綱ひとつで『異界』へと潜っていく死刑囚X。
今日も「私」はディスプレイを通して彼の視点を共有する。
……時には『異界』を垣間見、時には他愛のない言葉を交わす。
Xと「私」の、特に名前のない日々を綴った短編連作。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる平行世界。
未知の世界を観測すべく選ばれたのは、刑の執行を待つ死刑囚Xであった。
目に見えない命綱だけを頼りに『異界』に飛び込んでいくXと、彼を観察する「私」の実験と対話の日々、もしくは、三十一の忘れられない道行き。
※綺想編纂館(朧)様( @Fictionarys )の2022年7月の企画『文披31題』の参加作品です。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる並行世界。
この国の片隅で、未知の世界を知る者たちの『異界』探索プロジェクトが密やかに進んでいた。
プロジェクトメンバーはリーダー、サブリーダー、エンジニア、ドクター、新人の五人、国からの監査官が一人、それから異界潜航サンプルが一人。
そんな少数精鋭のプロジェクトは、今日もつつがなく、あるいは少しの事件とともに進んでいく。
これは、歴史には語られない彼らの、『異界』と彼ら自身にまつわる三十と一の物語。
※綺想編纂館(朧)様( @Fictionarys )の2023年7月の企画『文披31題』の参加作品です。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる並行世界。
本来「あり得ざる」それを観測する異界研究者たちは、今日もそれぞれの姿勢で『異界』と向き合っている。
『無名夜行』番外編、最初の異界潜航サンプルXが去った後の、プロジェクトメンバーたちの「残響」を描いた連作。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
全てが「霧」から生まれいずる世界にて。
世界の最西端、辺境の地で燻っていた「俺」……最強最速の翅翼艇『エアリエル』を駆る「救国の英雄」ゲイル・ウインドワードは、遠い日に目指した「青空」の色を持つ人工霧航士、セレスティアと出会う。
新たな相棒との日々と迫りくる過去、そして霧の向こうの「青空」とは。
真と偽の果て、青空目掛けて霧裂く空戦SFファンタジー。
霧世界報告 / ファンタジー / SF / 空戦 / 異世界
ここではない世界。万物の根源が「霧」である世界。
女王国首都の雑誌社に所属するネイト・ソレイルは、今日も怠惰で奇矯な作家カーム・リーワードの首根っこを引っ掴んで仕事をさせる。
そうでないと、きっと、誰の手も届かないどこかに行ってしまうから。大事なことを、全部、全部、取り落としてしまうから。
女神歴九六九年、帝国との戦争が終わって五年。
これは、落ち着きのない作家先生と、そんな先生を追う新米担当編集者の他愛のない日常の物語。
霧世界報告 / ファンタジー / SF / 日常 / 異世界
「ごきげんよう、叔父さま」
霧深き女王国の果ての果て、雨の止まない土地にて。
監獄塔『雨の塔』の面会室で「私」が出会ったのは、姪を名乗る少女アレクシア。
彼女は完璧な笑みを浮かべて言う。
「叔父さまの知恵を借りたい」――と。
犯罪者の「私」と面会者のアレクシア。
本来なら交わるはずのない二人による、安楽椅子探偵ミステリもどき。
霧世界報告 / ミステリ / ファンタジー / ふしぎ / 異世界
ノンシリーズものの短めなお話をまとめています。
ジャンルは話ごとにファンタジー中心にSF、現代、メタフィクション風など雑多。気が向いたら増えます。
SF / ファンタジー / ホラー / コメディなど
時計うさぎの不在証明 / 甘味組曲 / さよなきどりはなかない /
by admin. ⌚2024年8月3日(土) 08:36:43〔116日前〕 <1684文字> 編集
回る、回る、ぐるぐる回る。
つくりものの馬が、駆け抜けていく。
回転木馬。メリー・ゴー・ラウンド。
どこまで回っていくのだろう。いつまで回っているのだろう。
回るだけでは、どこにも行けないのに。
「……マリア?」
マリア・ラブレスは、己の名を呼ぶ声を聞いて、初めて自分が目の前を回るものに意識を取られていることに気づいた。
両方の手にコーンに乗ったアイスクリームを持った少年――アルベルト・クルティスは、分厚い眼鏡の下で三白眼を瞬きさせた。
「ほら、これ。チョコミントでよかったんだよな?」
「うん。ありがとう、アル」
チョコチップの散った淡い緑のアイスクリームを受け取って、ふと微笑みを浮かべると、アルベルトは頬を赤く染め、すぐに目を逸らしてしまった。その姿がなんとも微笑ましくて、マリアはくすりと笑みを零してアルベルトの見ている方向に視線をやる。
ここは、裾の町でも外れに位置する小さな遊園地だった。
小さいけれど、それなりの賑わいを見せているのは、ここが、普段の世界とは隔絶した空間であり、世界の息苦しさを一時でも忘れさせてくれるから、だろうか。
横に立つ彼も、そのような息苦しさから逃れたいと、望んでいるのだろうか。
マリアよりも少しだけ背の低い彼、アルベルトは、マリアと同い年の十五歳。だけど、マリアが出会ったときからいつも、子供のような無邪気さがあった。本当は無邪気でなんていられないはずなのに、この世界に生きる誰よりも優れた知識と能力を持っているはずなのに――マリアの前の彼は、いつも、ほんの小さな子供のよう。
それが、マリアにとっては愛しくもあり、同時に不安でもあった。
回転木馬の向こうには、白磁の塔が聳え立つ。統治機構《鳥の塔》。アルベルトが研究員として働く場所であり、マリアの全てを握っている場所。それが、自分たちを見下ろしている。どこにいても、見下ろしている。
回転木馬はぐるぐる回る。どこにも行けないまま、回り続ける。そんな木馬に跨った子供たちが歓声を上げているのを、見るともなしに見つめてしまう。
すると、おどろおどろしい色をした合成ベリーのアイスクリームを舐めていたアルベルトが、首を傾げて問うてきた。
「これ、好きなのか?」
「ううん」
マリアは首を横に振る。ただ、それ以上を彼に伝える気はなかった。きっと、彼を不安にさせてしまうだろうから。
思いはそっと胸に閉じ込めて、答える代わりに彼の、アイスクリームを持っていない方の手を握る。
彼の手の温もりを感じるために。
自分の手がまだ温かいことを、実感するために。
「マ、マリア?」
アルベルトが、目を白黒させてこちらを見ている。よく見なくとも、耳まで真っ赤だ。そんなアルベルトには気づかぬ振りで手を引いて、回転木馬に背を向ける。
「まだ、あっちは見てなかったよね。行こう、アル」
「お、おう」
上ずった声で返事をするアルベルトに笑みを向けて……一瞬だけ、回転木馬を振り返る。同じ場所をぐるぐる回り続ける、木馬たち。その背に乗る子供の一人は、無邪気に笑って、後ろの木馬に乗る仲間に向かって手を差し伸べている。
その笑顔が、横にいる少年の表情と重なって見えて――目を、背ける。
そう、笑っていてくれればいい。それだけでいい。そう思う心と、それ以上を望んでしまう心がせめぎ合う。
望んではならない。それは、今この場で手に入ったとしても、いつか必ず、最も望まない形で手放すことになってしまうから。
だから、己の望み全てを、そっと、心の奥底に沈む鏡の中に閉じ込める。
いつも、そうしているように。
アルベルトが、どこか不安げに顔を覗き込んでくるのを、やんわりとした笑顔で退けて。
早足に歩きながら、そっと口に含んだチョコミントのアイスクリームは、いつもよりも少しだけ苦く感じた。
――メリー・ゴー・ラウンドは好きじゃない。だって……
――追っても追っても、あなたの背中には追いつけないから。