by admin. ⌚2024年8月2日(金) 22:16:17〔117日前〕 レイニータワーの過去視 <1407文字> 編集
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる並行世界。
未知の領域を探査すべく選ばれたのは、刑の執行を待つ死刑囚Xであった。
目に見えない命綱だけを頼りに『異界』に飛び込んでいくXと、彼を観察する「私」の実験と対話の日々を綴る連作短編集。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
目には見えない命綱ひとつで『異界』へと潜っていく死刑囚X。
今日も「私」はディスプレイを通して彼の視点を共有する。
……時には『異界』を垣間見、時には他愛のない言葉を交わす。
Xと「私」の、特に名前のない日々を綴った短編連作。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる平行世界。
未知の世界を観測すべく選ばれたのは、刑の執行を待つ死刑囚Xであった。
目に見えない命綱だけを頼りに『異界』に飛び込んでいくXと、彼を観察する「私」の実験と対話の日々、もしくは、三十一の忘れられない道行き。
※綺想編纂館(朧)様( @Fictionarys )の2022年7月の企画『文披31題』の参加作品です。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる並行世界。
この国の片隅で、未知の世界を知る者たちの『異界』探索プロジェクトが密やかに進んでいた。
プロジェクトメンバーはリーダー、サブリーダー、エンジニア、ドクター、新人の五人、国からの監査官が一人、それから異界潜航サンプルが一人。
そんな少数精鋭のプロジェクトは、今日もつつがなく、あるいは少しの事件とともに進んでいく。
これは、歴史には語られない彼らの、『異界』と彼ら自身にまつわる三十と一の物語。
※綺想編纂館(朧)様( @Fictionarys )の2023年7月の企画『文披31題』の参加作品です。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
『異界』。ここではないいずこか、無数に存在し得るといわれる並行世界。
本来「あり得ざる」それを観測する異界研究者たちは、今日もそれぞれの姿勢で『異界』と向き合っている。
『無名夜行』番外編、最初の異界潜航サンプルXが去った後の、プロジェクトメンバーたちの「残響」を描いた連作。
虚構夢想 / SF / ファンタジー / ホラー / 現代
全てが「霧」から生まれいずる世界にて。
世界の最西端、辺境の地で燻っていた「俺」……最強最速の翅翼艇『エアリエル』を駆る「救国の英雄」ゲイル・ウインドワードは、遠い日に目指した「青空」の色を持つ人工霧航士、セレスティアと出会う。
新たな相棒との日々と迫りくる過去、そして霧の向こうの「青空」とは。
真と偽の果て、青空目掛けて霧裂く空戦SFファンタジー。
霧世界報告 / ファンタジー / SF / 空戦 / 異世界
ここではない世界。万物の根源が「霧」である世界。
女王国首都の雑誌社に所属するネイト・ソレイルは、今日も怠惰で奇矯な作家カーム・リーワードの首根っこを引っ掴んで仕事をさせる。
そうでないと、きっと、誰の手も届かないどこかに行ってしまうから。大事なことを、全部、全部、取り落としてしまうから。
女神歴九六九年、帝国との戦争が終わって五年。
これは、落ち着きのない作家先生と、そんな先生を追う新米担当編集者の他愛のない日常の物語。
霧世界報告 / ファンタジー / SF / 日常 / 異世界
「ごきげんよう、叔父さま」
霧深き女王国の果ての果て、雨の止まない土地にて。
監獄塔『雨の塔』の面会室で「私」が出会ったのは、姪を名乗る少女アレクシア。
彼女は完璧な笑みを浮かべて言う。
「叔父さまの知恵を借りたい」――と。
犯罪者の「私」と面会者のアレクシア。
本来なら交わるはずのない二人による、安楽椅子探偵ミステリもどき。
霧世界報告 / ミステリ / ファンタジー / ふしぎ / 異世界
ノンシリーズものの短めなお話をまとめています。
ジャンルは話ごとにファンタジー中心にSF、現代、メタフィクション風など雑多。気が向いたら増えます。
SF / ファンタジー / ホラー / コメディなど
時計うさぎの不在証明 / 甘味組曲 / さよなきどりはなかない /
by admin. ⌚2024年8月2日(金) 22:16:17〔117日前〕 レイニータワーの過去視 <1407文字> 編集
馬車はがたごとと揺れながら行く。
窓には金属の覆いがかけられていて、外の様子を窺うことはできない。今どこにいるのか、どのような道を通っているのか、何一つわからないまま、揺られるがままになっている。
車輪が小石を蹴ったのか、少しばかり大きく揺れた時、金属の触れ合う音が一際強く耳に響いた。そういえば、手枷と足枷から伸びる鎖の音にも随分慣れてしまった。姿勢を変えることもままならない窮屈さも、こうなる以前から似たようなものだったと思えばどうということもなかった。
そうだ、さしたる違いはない。私の立っている位置が、少しだけ変わったくらいで。
いつもの癖でこれから先のことを考えようとするけれど、もはや帰る場所も行くべき場所もないのだ。私に「先」など無いのだと、思い至る。
やがて、馬車の揺れる音に、屋根を叩く音と濡れた地面を走る音が混ざり始める。徐々に目的地に近づき始めているのだと気づいたけれど、そこに何の感慨も浮かぶことはなかった。
「もうすぐ到着だ」
重々しい声が響く。私は焦点の合わない目を上げて、けれどそれ以上何ができるわけでもないから、ただ瞼を伏せる。
この道の先にあるものは、私にとっての「終点」。
それは、雨に閉ざされた塔の形をしている。
今となっては遠い記憶を思い出していた。
馬車に揺られていた記憶。ここに辿り着くまでの、最後の記憶だ。
それがいつのことであったかは定かではない。遥かな昔であったようにも思えるし、遠いと感じていながら、実はつい先日のことであったかもしれない。何しろ日付を数えるのをやめてしまって久しい。確かめようと思えば確かめられるのだろうが、何となくその気にもならなくて、ただ、ただ、横になったまま、ぼんやりと雨の音を聞いている。
――『|雨の塔《レイニータワー》』。
その呼び名の通り、今日も遥かな高みに穿たれたちいさな窓は、鈍色の雨模様を映している。
少しばかり視線を動かせば、すっかり見慣れてしまった石壁と、それから本来壁であるべき一面に嵌め込まれた鉄格子。その向こうからは、直立不動の刑務官が鋭い視線をこちらに向けている。
「……飽きないのかい?」
問いかけてみるけれど、未だ名も知らない刑務官は答えないどころか微動だにしない。この独房に来た当時から何度も試してみているのだけれど、私が語りかけても刑務官たちが答えを返してくれたことはない。おそらく、話すことを禁じられているのだろう。全く、よく調教されているものだと思う。
このどうしようもない静寂にも、いつしか慣れきってしまっていた。絶えることのない雨の音、じっとりとした重苦しい空気、めったに開くことのない鉄の扉。その全てが当たり前になった今、私はぐるぐると終わりのない思索を続けている。
このまま、まどろみのままに雨に溶けることができたら幾分気が楽なのだが、その一方で私はまだ溶けて消えるわけにはいかない。それだけの理由がある。
せめて、少しくらいは体を動かしておいた方がいいだろう、と身を起こしたその時、不意に監視役の刑務官が私から意識を外したのがわかった。そちらに視線をやれば、別の刑務官が扉の前にやってきて、珍しく口を開いたのだった。
「面会だ」
「……面会?」
聞き返しても答えは帰ってこなかった。そこだけはいつもの通りだった。