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幸福偏執雑記帳
幸福偏執雑記帳

幸福偏執雑記帳

以降更新はindexで行います

2021年7月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する


●Scene:11 この舞台は誰がために

 ――一言で言えば、途方に暮れていた。
 パロットとコルヴスから聞ける限りのことは聞いた。ヒワのこと。ヒワがどのような人物だったのか。
 夢のような物語が好きだった。
 この桟敷城が好きだった。
 それから、多分、僕に何らかの願いをかけていた。
 桟敷城の一番高い位置の席に腰掛けて、もはや最低限の灯りしかつけていない舞台の上に、ぼんやりとヒワの姿を思い描こうとする。
 黄色い髪、天空の姫という役柄をそのまま表した、髪と同じ色の羽。光をいっぱいに孕んだ、琥珀色の瞳。小さな体をふわふわと浮かばせながら、舞台の上で出来る限り大きく見えるように背筋を伸ばして、必死に「お姫様」を演じる姿。
 思い出せる。思い出せる、けれど……、どうしてだろう。思い出したところで、何一つ、ヒワについて掴めた気がしない。ヒワがここにいたのは間違いないのに、僕がこうして考えている間にも、一つ、また一つとヒワがそこにいたという痕跡が消えていっているような……、そんな、錯覚。
 否、これは錯覚などではないのかもしれない。パロットやコルヴスから話を聞いてみると、日に日にヒワについての記憶が薄れているような、そんな感覚がある。単なる時間経過によるものではなく、ヒワについて昨日語ったことが、今日にはすっかり欠け落ちている、ような。
 これが鳥頭のパロットならともかく、コルヴスもそうなのだから、明らかに普通じゃない。僕はかろうじてまだヒワについて覚えているけれど、それでも、僕の記憶だって完璧なものではない。もし、僕が彼女を忘れてしまったら、もはやこの桟敷城に、何の意味が――。
「随分冴えない顔してるな、あたしの魔王様」
 突然耳元で囁かれた声に、わっ、と思わず声をあげようとしてしまう。声は出ないのだが、もはやこれは反射のようなものだ。
 けれど、今の、声は?
 それから、今、頭に浮かんだイメージは――。
 混乱する頭を振って振り向けば、そこに想像していた顔はいなかった。
「うーん、やっぱり女声の模写は無理があるな。上手く声が出ない」
 言いながら、けほ、と軽く咳をするのはコルヴスで、その後ろから、パロットが呆れ顔でこちらを見ていた。
「コルヴスー、悪趣味だぞその特技ー」
「悪趣味なのは百も承知だよ。……でも、まあ、それなりに似てましたよね?」
 前半はパロットに、そして後半が僕に投げかけられた言葉であることは、流石にわかった。コルヴスにもわかるように、深く頷く。確かに、今のコルヴスが放った声はヒワの声に聞こえて、それから――、それから?
 さっきの声をかけられて、僕の脳裏に閃いたイメージは、何だったのだろう。
 黄昏色の空。その前に立つ、小さなシルエット。
「悪ふざけが過ぎましたかね、ミスター?」
 僕の「沈黙」を前に、コルヴスが申し訳なさそうな顔をしてみせる。実際、申し訳ないとは思っているのだろうし、多分、平素の僕なら多少の苛立ちすらも覚えただろう。
 けれど、今の僕にとってはそうではなかった。
 ああ、どうしてこの喉は使い物にならないんだ。紙とペンを出すことすらももどかしくて、乱暴にコルヴスの手を取る。コルヴスの手は相変わらず冷たかった。幽霊を自称するパロットがやけに体温が高くて、一応生きた人間であるコルヴスが冷たいのもなかなか奇妙な話だが、そんな雑念は一旦横に置く。
 それから、呆然とするコルヴスの手のひらに、記す。
『もう一度』
「……もう一度、ですか?」
『頼む』
 僕の懇願の意味がわからなかったのだろう、コルヴスは色眼鏡の下で一つぱちりと瞬きをしたが、それから改めて瞼を閉じて微笑んだ。
「我らが魔王、ササゴイ様が望むなら」
 この芝居がかった台詞回し、普通の奴が言うなら鳥肌ものだが、コルヴスのそれは不思議と不自然さを感じないのが面白いところだ。当初からコルヴスの全てが演技である、ということもあるし、その「演技」に対して僕の感覚が麻痺してしまった、ともいえた。
 ともあれ、軽く咳払いをするコルヴスの前で、瞼を閉じる。
 それが彼女の声でないことを理解してしまった以上、もう、あの奇妙な閃きは戻ってこないかもしれない。
 それでも――。
 
「魔王様」
 
 それは。
 脳裏に閃くそれは、確かに、黄昏色の記憶だった。
 黄昏色だと思ったそれは、窓の外に広がる空の色。そうだ、あれは教室の窓だ。僕が舞台の上に立つようになるより前。他の誰にも上手く馴染めずに、ただただ日々を浪費していただけの場所。
 そこに、たった一人立っている誰かの姿を幻視する。
 黄昏色に浮かぶ小さなシルエット。セーラー服姿の少女が、くすくす笑いとともに僕を呼ぶ。
 
「ねえ、魔王様?」
 
 ――思い出した。
 僕は思わず、声にならない声を吐き出していた。
「ササゴイ?」
 パロットの問いかけに、僕は答えることもできないまま頭をかきむしるしかなかった。
 やっと思い出したんだ。今の声が、誰のものであったのか。
 ヒワ。そうだ、彼女の名前は――本当の名前ではなかったけれど、確かにヒワという「役名」であったはずだ。
 どうして忘れていたのだろう。いや、忘れようとしていたのかもしれない。僕にとって、その頃の記憶は大体がろくでもないものばかりで、だから、無意識に何もかもを無かったことにしていた。
 けれど、けれど、その中に、決して忘れてはいけないものが混ざっていたのではないか?
 思いだせ。もっと深く。黄昏色の、その向こうまで。
 
 
     *     *     *
 
 
 放課後の空き教室。
 それが、一日の中で僕が息をつける唯一の時間であり、場所であった。
 僕はこの頃からずっと役者になりたくて、けれど、僕のいる学校には演劇を志望する人なんていなかったし、親は全く僕の話を聞こうとはしてくれなかった――今ならその理由も何となくはわかるけれど。
 というわけで、家に帰れば宿題をしろだのなんだの言われるだけだし、だからといって、どこかの部活に入る気も起きなかった。だから、僕はいつだって、声一つ出すこともできずにただただ本、特に戯曲ばかりを選んで読んでいた。
 ――そんな日々が少しだけ変わったのは、空き教室の住人が一人増えたからだ。
 野暮ったい、黒髪を二つのお下げにした女の子。クラスメイトの一人。当時は名前すらまともに認識できていなかった彼女が教室に居座っているのを見つけた時、僕は失望を覚えたのだった。僕の居場所が失われた、と。
 けれど、彼女は僕の居場所を侵害しようとはしなかった。軽く会釈をするだけで、部屋の片隅で何かを書く作業に戻っただけ。だから、僕もその対角線上で、本を読むことにした。
 彼女が紙の上にシャープペンシルを走らせる音は、いっそ心地よかった。彼女がほとんど手を止めなかったから、ということもある。時々小さく唸るような声が混ざっていたのも、彼女が全く僕の存在に気を留めずに作業に没頭しているからだとわかったから、不愉快とは思わなかった。
 ……だから、だろうか。
 声をかけたのは、確か、僕の方からだった。
「何を書いてるの?」
「ひえっ」
 教室の対角線上から投げかけられた声に、彼女はいたく驚いたようで、黄昏色の教室の中で、黒いお下げが跳ねたのを覚えている。
「しょ、小説!」
「……小説?」
「っ、XXXXさんこそ、何読んでるの?」
 それに、僕はなんと返したんだったか。ただ、その頃の僕に嘘をつく理由は無かったと思うから、普通に答えたんだと思う。それに対して、彼女はほう、と息をついて、それからうって変わって慌てた様子で言ったのだ。
「あ、あたしがここで小説書いてるのは、他の皆には内緒だぞ!」
「別に。言う理由もないから、言わないよ。でも、どんな話を書いてるの?」
 その問いに対して、彼女はぱっと顔を綻ばせて、今までのたどたどしい言葉遣いが嘘のように、ぺらぺらとまくし立て始めたのだ。
「これはね、神様が本当にいて、魔法って力が当たり前の遠い世界で、天空の城にたった一人暮らしてた姫の話で――」
 その筋書き自体は酷く陳腐で、僕は確か、相当棘のある評価を下したんだったと思う。けれど、それを真に受けてしょげたかと思うと、すぐに顔を上げて笑ってみせたのだ。
「話を聞いてくれてありがとう、XXXXさん。参考にするよ」
「いや、ごめん、少しきつい言い方をした。姫の性格づけは面白いと思うよ。折角、頭の回る姫なんだから、もう少し機転を利かせた行動を差し込んだ方がいいんじゃないかな」
「例えばどんな感じの?」
「そうだな……」
 そんな風に。僕は、気づけば彼女の「世界」に足を踏み入れていたのだと、後になって気づいた。そして、彼女の「世界」について語り合うことが、楽しくなっていたことにも。
 彼女の物語は、いつだって筋書きはどこにでもあるような恋愛ものだったのだけれども、それでも、僕は彼女の話を聞くのが好きだった。彼女が、それを「形にしよう」としているのを見ているのが、好きだった。
 そんな彼女を見ていると、何一つ行動に移すこともせず、口を噤んだままでいる僕自身が情けなくなってくるほどに。
 そんなある日、彼女は言ったのだ。
「XXXXさんは、どうしていつもここで本を読んでるの?」
「僕にも、やりたいことがあるから、その勉強をしてる」
「演劇?」
「うん」
 その頃には、彼女にも僕が何をしたがっているのかわかっていて。彼女は、僕の前にびっしりと手書きで書かれたノートを突き出してきたのだった。
「なら、未来の役者さんに、魔王を演じていただこうか!」
「……魔王ササゴイ?」
「そう。それで、あたしが姫君ヒワ。よろしく、あたしの魔王様!」
 やっと。やっと思い出した。
 どこかで聞いた名前の理由。陳腐な筋書きの既視感。僕のために存在する『黄昏劇団』。
 そうだ、黄昏色の教室で、二人きり。囁くように、紙の上に描かれた世界を演じていく。
 それこそが僕と彼女――魔王ササゴイと、姫君ヒワの、誰一人として観客のない「舞台」だったのだ。
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#桟敷城ショウ・マスト・ゴー・オン!

文章

おすすめされた『鶴瓶のスジナシ』の池谷のぶえさん回がめちゃ面白かったので置いておこう。



ほんとにすごい。これを、舞台設定だけぽんと置かれてそこから即興でやってるっていうのが「!?」ってなる。
よくその場でこの発想をして、実行に移せるなという気持ち……。これが役者というものなのか……。
それぞれが仕掛けたちょっとしたフックから、話を面白そうな方に仕掛けていくのだな。なるほど……。
アフタートークでの振り返りもとても面白くて、いいなぁ。けらけら笑いながら見てしまった。

最近よく五月のこと考えてるから五月もこういうこといっぱいやってるんだな……って思ってにこにこしちゃう……。

映像


●Scene:10 ヒワという脚本家について

 ――ヒワが、消えた。
 
 言葉通りだ。
 僕の前から、忽然と姿を消してしまった。
 ばらばらに破かれた、白紙の脚本だけを残して。
 
「ヒワ? そういやどこ行ったんだ? コルヴスは知ってっか?」
「ボクは知らないよ。……最後に見たのは、昨日の朝食の時間だね」
 桟敷城の居候のパロットとコルヴスも、ヒワの行方は知らないという。そして、ヒワのことに関して、この二人が嘘をつくとは思えなかった。パロットはそもそも嘘なんてつけそうにないし、コルヴスはしれっと嘘をついていてもおかしくないタイプではあるが、絶対に「必要の無い」「つまらない」嘘はつかない。そういう意味で、僕はこの二人の発言には信頼を置いている。……名前以外にさして知っていることも多くない相手なのに、不思議なことではあるが。
 かくして、僕は途方にくれるしかなくなった。
 ヒワがいなくなったということは、この学芸会もどきを続ける意味もなくなったということだ。元はといえばヒワが僕に自作の脚本を押し付けてきて、ここに書かれている通りに公演をするのだと言ったのだ。この世界のルールとして、この世界において「魔王」と呼ばれる存在は何らかの「商売」をしなければならないから、と。実際、この世界はそんな奇妙なルールで回っている。
 ただ、商売は別に「公演」である必要は無い。僕の城は劇場の形をしているけれど、劇場でパンや本や家電製品を売ったってよかろう。別にそこに厳密なルールがあるわけではない。だから、残りの日々を、何か適当なものを売るなりして過ごせばいい。
 それでも、僕は途方にくれる。
 だって、僕は何もわからないのだ。
 覚めない夢の中で、何をすべきかもわからない僕の手を引いて。ヒワは、いつも僕に何らかの指針を示してくれていた。最もわかりやすかったのは「脚本」の存在だ。これの通りに公演を進めればいいのだと言われた以上は、それをこなすだけでよかった。
 そのヒワが、いなくなった。
 脚本を破り捨て、僕の手を離して、消えてしまった。
 それなら、僕は――。
「ササゴイ、冷めてしまいますよ」
 コルヴスの指摘に、ボクは慌てて手元を見る。
 朝の食事当番はパロットとコルヴスで――パロットは料理が「できない」とは言わないがとんでもない味音痴で美味いときとそうでないときの差がやたらと激しく、コルヴスは人並みに料理は出来るのだが手元が見えていないため少々危ない。というか、実際、彼の指には火傷やら小さな怪我のあとがいくつも見受けられる。そのため、コルヴスが来てからは自然とコルヴスをパロットが補佐する、という形の食事当番になった――今日の献立は温かなオートミールだった。このオートミール、当初は僕にとってはさほど美味いものには感じられなかったしヒワも文句を垂れていたが、近頃は慣れつつある。……というより、僕らの味覚に合わせてコルヴスが味付けを少しずつ変えてくれているのだ。
 そんな、優しい味のオートミールを腹の中に入れているうちに、少しだけ心が落ち着いてきた。
 そんな僕を、パロットが綺麗な色の眼で覗き込んでくる。
「……ササゴイ、だいじょぶか? めちゃくちゃ顔色悪いぞ」
 大丈夫ではない、と首を横に振る。落ち着きはしたが、途方にくれていること、それ自体は変わらない。
「レディのことが、心配ですか?」
 コルヴスの問いかけに、僕は少しだけ首を捻った。
 ――心配。
 ヒワがいなくなったことで、僕は途方にくれた。指針を失った。ただ、コルヴスの言葉を聞いた瞬間に脳裏に閃いたのは、脚本を破り捨てたヒワの、今にも泣き出しそうな笑顔。なのに僕は、そんな彼女の心境を考えもせずにただただ僕自身のことばかり考えていた。そのことに気づいた瞬間、自分の喉をかきむしりたくなる衝動に駆られる。
 心配か? 否、ただ混乱するばかりで、心配だと思うことすらしなかったのだ、僕は。
 たまらず、手元に置いたメモにペンの先を置く。
『私には』
 そこまで記して、一瞬、手が止まる。
 何と書けばこの二人に伝わるだろうか、この僕の混乱が。戸惑いが。そして自分のことしか考えていなかった浅ましさが。
 それでも、何かを伝えなければならないという思いだけが、僕の手を動かした。
『ヒワがわからない』
 パロットは、僕のメモを読み上げて――これは目が見えないコルヴスへの、パロットのほとんど無意識の配慮だ――それから、首を傾げる。
「俺様だってわかんねーよ。俺様はヒワじゃねーし」
「いや、それはちょっと違うよパロット。ミスターは、多分こう言いたいんじゃないかな」
 コルヴスは食後の紅茶で唇を湿してから、顔をこちらに向けて、静かに言った。
「ミスターは、レディのことを、何も知らないと言いたいのでしょう? 彼女の考え方、彼女の趣味嗜好、彼女の行動選択の理由。だからこそ、彼女が消えたことが納得できない。納得できないから、心配のしようもない」
 コルヴスには本当に舌を巻く。彼は目で見る以上に僕の顔色を、思考を、的確に読み取ってくる。ただ、もしかするとそれは「同属」だからなのかもしれない。方向性は違えど「演じる」ことに慣れきった僕らだからこその、一種の共感。
 コルヴスの言葉に「そっか」と頷いたパロットは、僕に向き直って、きょとんとした顔で言った。
「ササゴイって、ヒワのこと、何も聞いてなかったんだな」
 ――ああ。
「ヒワ、色々面白い話してくれたんだぜ。何のとりえも無い女の子が、突然知らない世界に召喚される話とか! 誰にも見えないけど確かにそこにいるお化けの事件を解決するコンビの話とか! 自分の未来を変えるために必死にあがく連中の話とかさ!」
「ほとんど、即興の作り話でしたけどね。……でも、彼女にはストーリーテラーの才能がありましたよ。どうしてあんな陳腐な脚本を書いていたのか、不思議なくらいです」
 その陳腐さも嫌いじゃなかったんですがね、とコルヴスはどこか懐かしむような表情を浮かべる。
 ……僕はそんな話、ヒワの口から聞いたことがなかった。ごく基本的な練習方法についてあれこれ教えて、これからの展開をどう演じていくかを相談して、あとは、いつだって潰れかけの桟敷城をどう盛りたてていくかを話し合うくらいだった。
 そうだった。
 僕は、いつだって僕の周りの不思議が夢なのだとばかり考えていて、その不思議について思いを馳せることはあっても、ヒワについて何一つとして知ろうとしなかった。否、知りたいと思わなかったわけじゃない。彼女の存在を疑問に思わなかったわけでもない。
 それでも、どこまでも夢の中なのだから、僕が魔王でヒワがお姫様だという設定は「そういう設定」であって、僕はヒワから言われたことを、ただ粛々とこなしていればいいのだと……、そんな風に決め付けることで、考えることをやめていた。
 けれど、多分、そうじゃないんだ。
 この桟敷城の存在は確かに夢、もしくは僕の心象風景かもしれない。現実ではありえないことしか起きないのだから、夢と考えていても問題は無いはずだ。
 けれど、ヒワは。ヒワのことだけは。ただの僕の妄想で片付けるには、あまりにも「僕」からかけ離れすぎている。それを言ったら、パロットとコルヴスも、それに僕に語りかけてくれてきた人々全てがそうなのだけれども。
『もっと、教えてくれないか』
 僕は「言う」。僕の声はいつだって、紙の上に走らせるペンの速度でしか届かず、それが酷くもどかしい。パロットがコルヴスのために僕の書いてくれた文字列を読み上げてくれるのに内心で感謝しながら、更にペンを走らせる。
『もう、手遅れかもしれないけど、それでも、私は知りたい』
 知らなければ、いけない気がするのだ。
 知りたいと願う僕のために。それに――もしかすると、ここにいたヒワのためにも。
『ヒワのこと。ヒワが、どうして、桟敷城に「囚われて」いたのかを』
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#桟敷城ショウ・マスト・ゴー・オン!

文章

誰にも通じないとはいえノーグ・カーティス、一応現在も参照はできるんだよな。
https://ncode.syosetu.com/n4009cl/
すっごい個人的な都合により続きはもう書けないんだけれども。
でも、今の自分ならこれをどう描くかなぁとはよく考える。
要素の一部というか一番大きなネタをそのままミストノーツに移植しちゃったから、このまま書くのは無理だと思うんだけど……。
ただ人間関係みたいな部分は好きなので、何かコンバートできればいいなあとは常に思っている。

創作

MIU404の志摩さんが理想のノーグ・カーティスだって話する???
いや、あの、ルールで己を縛ってて理性的に見える一方で、実際には結構手段を選ばない感じとかめちゃめちゃあざらしの理想のノーグだが?
情が無いわけじゃないけど基本的にそれで動くわけじゃないところもすごいノーグっぽいじゃん……。
誰にも通じないからその話はここまでにしておきなさい。はい。

創作

舞台を見てると五月ならどの役やってそうかなーと思ったりする。
基本的に二枚目だけど、つまり「二枚目」ってことは主役ではないということなんだよね。
主役の横に立ってるイケメンポジション、ということ……。
五月自体は顔立ちから、どちらかというとクールめの印象を持たれがちかなとは思う。
ただ、本人がクールかというと全然そんなことはなくて、結構情熱の人なんだけれども……。
(その「本人」の話をされるのを五月はすごく苦手としているわけだが)
五月はどんな役を渡されても全力でこなすし、今までについたイメージを常に壊し続けていきたいと思っているんじゃないかな。
そんな人だから、「声がない」っていう「個性(とあえて表現する)」が付与されたことはかなりのディスアドバンテージだと考えている。
どうしたって、何を演じていたって「笹垣五月」というキャラクターを背負ってしまうというか。
その辺りを振り切って、自分にできることを、本当の意味で「何だって」する、というのが今の五月の課題なんだろな~。

創作

桟敷城における魔王ササゴイ、髪は伸びっぱなしだし無精髭だしユニクロのジャージだしで見た目はもさっとしております(文章はササゴイの視点だからその辺が具体的に描写はされないんですけど)。
一応、設定を信じるならば顔立ちに関しては二枚目の方なんですけどね。比較的整った顔をしている。
ただ、しばらく人に会わずにぐったり暮らしていた人がまともな格好をしていると思うか? 思いません。
あざらしは……、きちんとすればきちんとできるひとが、微妙にきちんとしてないっていう格好が……好き……。
その辺りDoA雁金とかにも滲んでますよね。ああいう感じが好きなんですね。
(その一方でとけうさ雁金は人に会う仕事をしているので見た目もきちんとしてます。TPOは大事!)

創作


●Scene:09 君の脚本を破り捨て

 タイムリミットが刻一刻と迫っている、と魔王たちが噂する。
 そうなのかもしれない。この夢が覚める日がやってくるのかもしれない。もしくは、永遠に覚めない日が。別にどちらでも僕にとっては変わらないことだ。「終わり」というのは、それだけで少し恐ろしいような気はするけれど、気にしたところで僕一人がどうこうできる問題ではないのだから。
 ただ、日に日に、焦燥感が募るのはどうしてだろう。今まで「どうにかしよう」と内心何度も呟きながら、結局行動にも移す気になったことがない僕らしくもなく――僕は、多分、いつになく焦っている。何に対して焦っているのか、何をしていいのかもわからないまま、ただただちりちりするような感覚が徐々に胸の端を焦がしている。
 いや……、目を逸らしているだけで。何に対する焦燥なのかは、とっくにわかってはいるんだ。
 僕は気づいてしまった。向き合ってしまった。僕自身がまだ、諦められていない、という事実に。
 けれど、だからといってどうすればいいんだ?
 そろそろと、張りぼての舞台の上に立ってみる。広すぎる観客席には人一人いない。それでも、自然と指先が震える。指だけじゃない、全身が。言ってしまえば、舞台の上で震えるのはヒワやコルヴスも同じだ。何があろうと堂々と振舞えるパロットみたいな奴は、例外中の例外と言っていいと思う。
 ただ、ヒワのそれは激しい緊張で、コルヴスのそれは「見られる」ことへの羞恥と恐怖だが、僕のそれは多分どちらとも違う。
 ――僕が恐れているのは、きっと。
「ササゴイ」
 突然投げかけられた声に、はっとそちらを見る。見れば、いつの間にかヒワが舞台の上に立っていた。
 今日は、調子が悪いから練習は休みだと朝に伝えたはずだ。けれど、ヒワは真っ直ぐに僕を見据えたまま、いつになく真剣な表情で口を開いた。
「話があるんだ」
 
 
          *     *     *


 僕とヒワは、舞台の縁に腰掛ける。どちらともなく。
 そして、しばしの静寂が流れた。何せ僕からヒワに何かを切り出そうにも、僕が話すこともなければ、話す声もない。メモ帳の上に、ペンでぐるぐるとよくわからない図形を描くことしかできない。
 やがて、僕の横に腰掛けたヒワがやっと口を開いた。
「……ササゴイは、コルヴスと話をしたんだな」
 ああ、その話は結局コルヴスから伝わったのか。僕から言うことは何も無いと思っていたから、コルヴスと何を話したのかヒワとパロットには伝えていなかった。ただ、その日あたりから僕の様子がおかしいことくらいは、ヒワも気づいていたんだろう。
 そして、きっと。
『ヒワは』
 最初から。桟敷城で目覚めた僕を「魔王ササゴイ」と呼んだその時から、もしくは僕が目覚める前から、ずっと。
『私が役者だってことを、知ってた?』
 僕の問いかけに、ヒワは顔を露骨にこわばらせた。それでも、絵に描いたようなふっくらとした唇を震わせながら、はっきりと、言った。
「うん。あたしはササゴイが何だったのか知ってる。君の本当の名前だって」
 そっか、と僕は唇だけで囁いた。
 別に驚きはなかった。そうだろうな、とは随分前から思っていた。僕に舞台に立ってくれないかと頼んできた頃から、彼女は僕の不機嫌に気づいていた。僕が本職の役者だからこそ、そんな僕の前で「演技」をするというのがどういうことか、わかっていたのだ。だからこそ、僕に稚拙さを叱責されると怯えていたのだと、今なら認めることができる。
「……ササゴイは、怒らないんだな。あたしが黙ってたこと」
『怒る理由がない』
 ヒワがずっと黙っていた理由はわからなかったけれど、僕が「誰」なのかを具体的に指摘されないだけ、ずっと気楽だったのは事実なのだ。不思議には思えど、怒る理由なんてどこにもない。
 僕――魔王ササゴイでない現実の僕は、かつて、舞台に立つことを生業とする俳優だった。
 正確に言えば舞台俳優だと胸を張れるようになるまでに紆余曲折といくらかの幸運があって、舞台の上に立ち続けていられたのだと思っている。
 うん、そうだ。冷静に思い返してみれば、僕はその時疑いもしていなかったのだ。このまま、ずっと、充実した舞台上の日々が送れるのだと。夢が叶った日々が続くのだと。
 それを、どうしようもなく、病によって絶たれるまでは。
 張りぼての舞台に、大きすぎる観客席。
 この桟敷城が歪な形をしている意味も、今なら何となくわかる。そして、ヒワも僕が無数の観客席を見つめていることに気づいたのだろう。ぽつり、ぽつりと、言葉を落としていく。
「あのさ。ササゴイからは、現実が、こういう風に見えてたんだな」
 僕は一つ頷くことで、ヒワの言葉が正しいことを伝える。
 張りぼてで取り繕った舞台は、まさしく今の僕自身だ。
 僕は、昔から僕自身の形のまま表に立たないようにしてきた。現実でも、ほとんど「僕」を露出させずに、あくまで「役」としての僕を見せることだけを考えて生きてきた。舞台裏など、本当の自分など、見せる必要はない。プライベートを限りなく隠して――と言っても、僕のプライベートはほとんど「演劇」をするための手続きに費やされていたけれど――その分、舞台の上の「誰か」を見てもらいたかった。僕という肉体を、精神を通して僕でない「誰か」を表現すること。舞台の上にいる時だけは別の誰かとして全ての人の目に映ること。それが「演技者」としての僕の目指すところだったのだ。
 けれど、どうしたって、それは叶わなくなってしまった。
 声を失ったことは確かに酷い痛手だった。けれど、それ以上に、無数の、それこそ「演技者」としての僕を知らない連中までが「僕」に注目したのだ。そりゃあ格好の話題だろう、病で声を失った俳優なんて。
 だけど、僕は。
『私は、私のまま衆目に晒されるのが堪えられなかった』
 この無数の観客席は僕にとっての「脅威」の象徴だ。ある意味ではコルヴスが恐れたそれに近いかもしれない。ただ、少しだけ違うのは、僕が恐れている視線の意味だ。
『私は、「私」が失望されることに堪えられなかった』
 僕に向けられるものの大体は好奇と哀れみの視線。けれどそれ以上に恐ろしかったのは、「失望」だった。舞台上の「僕ではない誰か」を見てくれていた人が、リアルの、生身の僕に向ける「失望」。その視線に気づいてしまった瞬間、心が折れる音がした。
『だから逃げた。全ての連絡を絶って、遠くに引っ越して、これから何かをしようとする気すら起きなかった。君に呼ばれるまで、ずっと。それでまた、こんな、舞台に呼ばれるなんて、思わなかったけれど』
「そっか」
 一気に書き記した、いつになく汚く荒れた文字列を、それでもヒワは一目で読み取ってくれたらしい。眉を寄せて、きゅっと唇を引き結んで。それから、囁くように問いかけてくる。
「もう、舞台には立たない?」
 ペンを持つ手が震えた。ああ、これを「言う」のは流石に勇気がいるんだな、と僕は僕自身を笑いたくなる。
 けれど、今の僕の、素直な気持ちを、殴るように書き記す。
『立てないよ』
 ――誰も見ていない舞台の上ですら、震えが止まらないんだ。
 こんな僕が、かつてのように「誰か」を演じることなんてできない。もう僕以外の何にもなれないものが、舞台に立つことなんて、僕自身が許せそうにない。
 すると、ヒワが。
「ごめん、ササゴイ」
 ぽつり、謝罪の言葉を漏らした。一体何への謝罪なのかわからず目を点にする僕に対して、ヒワは観客席に目をやって、背中の羽をゆったりと動かしながら言う。自分自身に言い聞かせるように。
「あたし、ササゴイの望みを取り違えてた。……そうだよね。そんなことがあったら、当然だよね。うん、あたしが浮かれてたんだね」
 だから、と。
 言って立ち上がったヒワの手には、いつの間にか分厚い脚本が握られている。
 どういうことだ、という声はヒワには届かない。僕の口から声が出ることはないのだから。
 ヒワは両手に持った脚本を、広げて――。
 
「もう、おしまいにしよう」
 
 そのまま、勢いよく破り捨てた。
 ばらばらと、無数のページが舞台の上に広がっていく。僕はただそれを呆然と見つめることしかできない。ヒワはその上に浮かびながら、じっと、僕を見下ろしている。
 恐る恐る、破り捨てられた脚本の一枚を、手に取る。
 それは……、白紙だった。
 その一枚だけじゃない。僕の視界に映る床に落ちた紙の全てには。
 
 何も、書かれてはいなかった。
 
 見上げたヒワは笑う。今にも泣き出しそうな顔で。
 ――僕が、どこかで見た顔で。
 
「お別れだ、あたしの、」
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#桟敷城ショウ・マスト・ゴー・オン!

文章

バーテンダーさんが氷を削る動画なんだけどこれめちゃめちゃいいな~!!
バーの氷ってこうやって作られてるんだなと思うとわくわくしてくる。
バーテンダーというお仕事への解像度もぎゅんと上がる感じでとてもよい……。
雁金!!! 氷削る練習しよ!!!(何?)

映像

MIU404を見返してるんだけど2回目見ると解像度上がるね~!
「多分こうかな?」って思ってたところを補強したり、微妙に聞き漏らしてた台詞聞けたり、何度も見る楽しさというのを体感している~!
普段本当に映像作品は見ないし一度見たものを見返したりすることも稀なので、こういう機会を設けてもらえるのはとてもとても嬉しいなあ!
環境が変わったらこうもしてられなくなりそうだけど、それまでに色々詰め込めれば……よい!

いま