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シアワセモノマニア
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ハッピーをお届けする空想娯楽物語屋

No.79, No.78, No.77, No.76, No.75, No.74, No.737件]


●Scene:02 迷宮桟敷の人々

 ――随分と長い間、眠っていたような気がする。
 
 目覚ましは鳴らない。そもそも長らく、セットなんてしていなかった気がする。その理由もなかったから。目が覚めた時に起き出して、冷蔵庫の中身を確認して、食うものがなければ近くのコンビニかスーパーに出かけて、出来合いのものを買って食べて。
 それから……、何を、しようか。
 貯金も有り余ってるわけじゃない。バイトでも何でもいい、仕事をするべきだ。案外、始めてしまえば何とでもなるだろうし、本職とバイトをいくつも掛け持ちしていた時期だってあったんだ、やってできないことはない。そのはずだ。
 そのはずだ。何度目だろう、その言葉。
 結局僕はありもしない「はず」を頭の中でぐるぐるかき混ぜながら、今日も薄っぺらい敷布団の上でごろごろしたまま一日を始めて、終えてしまうのだろう。
 本当に、僕は一体、何のために息をしているのだろう?
 とにかく、起きよう。もしかすると、もしかしたら。今日くらいは気持ちよく起きて、多少は人間らしい生活をして、それで、少しくらいは変わった一日になるかもしれない。
 そんな無根拠かつ全く信じられないことを言い聞かせながら、何とか重たい瞼を開こうとした、その時。
 
「おはよう、あたしの魔王様!」
 
 ――声?
 この部屋に、僕以外の誰かがいるわけがないのに?
 ついでに、テレビもなければラジオも置いてないんだ、Nから始まる国営放送の集金はこの前一時間をかけて突っぱねたばかりだ。スマホの電話番号を変えてからは、誰かから電話がかかってくることだってなくなった。唯一、両親と、かろうじて話のできる奴とLINEは繋がってるけれど、僕に「通話」をしてくるなんて馬鹿はいない、はずだ。
 なら、この声は、何だ?
 跳ね起きて、瞼を開いた瞬間、確信した。
 これは、よくできた夢だ。
 何しろ、僕の前に広がる光景は、夢以外の何ものでもない。
 目が覚めて真っ先に目に入るはずのとっ散らかった部屋はどこへやら、きらきら、否、ぎらぎらとした照明に照らされているのは、誰一人として座っていない無数の座席だ。そして、眼下に見える小さな小さなそれは、どう見ても「舞台」にしか見えない。きらびやかに飾り付けられた、けれどどこか張りぼてのような安っぽさを感じさせる舞台。
 その上に立っているのは、お世辞にも舞台衣装とは言いがたい、『死体』と筆文字で書かれたTシャツにハーフパンツ姿の男だ。その服装のセンスはともかくとして、橙色に近い金髪に、ところどころ青緑の房が覗く妙に鮮やかな色の髪が目に焼きつく。西洋の、しかも北方の生まれなのか、血管が透けて見えるほどに白い肌をした、けれど決して不健康そうには見えない生き生きとした顔が遠目にもはっきりと見て取れる。
 それに、何よりも。
 舞台の上で歌う男の声は、伸びやかで、晴れやかで、そうだ、聞いているだけで真夏の晴れた空の青が、長らく見上げることも忘れていた空の色が思い浮かぶ。歌詞も無い、僕の全く知らない歌だというのに、僕にはそれが「青空」を歌った歌に聞こえたのだ。
 じわり、と。目元が熱くなる。どうしてだろう、舞台を見下ろしているだけで、男の歌を聴いているだけで、胸が痛んでくる。喉がからからに渇いて、噛み締めた唇が痛みを訴えて。なのに、僕はそれを止めることができずにいる。
 ああ、こんなの、悪夢だ。悪い夢に決まっている。
 だって、僕は――。
「もしもーし? 魔王様?」
 歌とはまた違う、今度は意味のある言葉が、突然、僕の意識の中に滑り込んでくる。
 息を飲んで勢いよくそちらに視線を向けると、
「ぴゃっ」
 奇妙な鳴き声と共に、僕に声をかけた「それ」はものすごい勢いで僕から離れると、壁沿いの柱の後ろに隠れてしまう。と言っても、柱はそう大きなものではなくて、体の半分くらいは僕から丸見えなわけだが。
 それにしても、これまた、舞台の上で歌う男より更に現実感からかけ離れた女の子だった。
 年のころは中学生くらいだろうか。ふわふわと波打つ髪の毛は、金髪を通り越して柔らかな黄色、と言った趣だ。ひよこの毛、よりも更にはっきりとした黄色。大きく見開かれた目も琥珀を固めたような、きらきらと輝く不思議な色をしている。
 それ以上に、どうしても目が行ってしまうのは、女の子の背中に生えた、髪の色と同じ黄色い羽だ。張りぼてめいた座席や舞台に反して、女の子のその羽だけは、どう見ても本物にしか見えなかった。実際、女の子の警戒を反映してか、ゆるゆると閉じたり開いたりを繰り返している。
 君は誰だ、と問いかけたかった。けれど、その問いかけが声になることはなかった。夢の中なのだから声くらい出せてもよいだろう、と思うのに、ただただ、掠れた呼吸が漏れるだけだ。
 それでも不思議と、柱の後ろの女の子は、そんな僕の言わんとしていることを察したのだろう。ちょこんと顔を柱の後ろから顔を覗かせて言う。
「あっ、あたしはヒワ。古代より続く天空王国アーウィスのお姫様だ!」
 お姫様。確かに、ファンタジーRPGに出てくるようなひらひらした服装からしても、言われてみればそんな感じがする。正直自分で「お姫様」って言うものでは無いと思うけど。
 僕がそんなことをつらつら考えていると、お姫様・ヒワは僕のことをびしっと指差してみせる。柱の後ろから。人を指差してはいけないと教えてもらわなかったのか、お姫様のくせに。
「そして、君はササゴイ!」
 ササゴイ?
「ササゴイだ。ダンジョンの一角を支配するこわーいこわーい魔王ササゴイ様! 黄昏の軍勢を操る強大な魔王で、あたしをさらって、この『桟敷城』に閉じ込めたんだ」
 ササゴイ。ヒワもそうだけど、確か鳥の名前だったか。もちろん、僕はそんな名前じゃないし、魔王なんて胡散臭いものじゃない。もしかすると「無職」よりは幾分かマシかもしれないけれど。
 そして、当然ながら、こんな羽の生えた女の子を拉致監禁した記憶もない。そんな真似してバレてみろ、無職どころか豚箱行きだ。ただでさえ死んでるようなものなのに、今度こそ社会的に死んでしまう。
 ヒワと名乗った女の子は今のやりとりで少し警戒を解いたのか、柱の後ろから出てくると、僕らしか観客がいないにもかかわらず、舞台の上で朗々と気持ちよさそうに歌い続けている男に視線を向ける。男はヒワと僕の視線に気づいたのか、こちらを見上げて、にっと人懐っこく笑って手を振ってきた。
 何だあれ、という僕の思いを受け止めたのか、ヒワは首をかしげながら言う。
「あれはパロット。何か……、気づいたらこの城にいた。多分、旅の吟遊詩人。そういうことにしてる」
 自己紹介や僕に対する決め付けに反して、ものすごくふわっとした説明をされた気がする。「多分」とか「そういうことにしてる」って、普通、人に対する説明には出てこないぞ。
 言っているヒワ自身も流石に無理があると思ったのか、僕を見上げて、煌く目をぱちりと瞬きをして、そっと、秘密を打ち明けるように囁いた。
「という、役なんだ。この、桟敷城では」
 ――役。
 その言葉は、不思議と、ぐちゃぐちゃにかき乱されていた僕の心の中に、すとんと落ちた。
 そうか。どうやら、僕はこのヒワとかいう女の子曰く、既に意味のわからない「劇」に巻き込まれているということらしい。お姫様とか魔王とか、はっきり言って何が何だかさっぱりわからないし、こんな台本も与えられてない、子供のお遊戯に付き合ってやる義理もない、けれど。
「というわけで、魔王ササゴイ様! 今日から君は桟敷城の魔王として、魔王らしく振舞ってもらう!」
 びしっ、ともう一度指差されて、僕はつい、少しだけ笑ってしまった。
「なっ、何で笑うんだ?」
 だって、おかしいじゃないか。夢の中でまで、僕は誰かに「役」を押し付けられようとしている。こんな、張りぼての劇場で。
 ただ――、今この瞬間の僕を。誰でもない、それこそ形すら定かでない僕を真っ直ぐ見つめられるのは、気恥ずかしくもあったけれど、自分でもわからないままに、笑いたくなってしまったのだ。
 何で笑ったのか。その答えを僕は持たないし、仮に答えを持っていたとしても、答えることができない。それでも、多分僕の笑顔がヒワを笑ったものではない、ということは伝わったのだと思う。ヒワも、僕に向けて、どこかはにかむように――笑ってみせた。
「頼むぞ、あたしの魔王様」
 何故だろう。
 そうやって、はにかむように笑う誰かを、僕は何故だか知っている気がした。
 気がしただけ、なのだけれども。
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#桟敷城ショウ・マスト・ゴー・オン!

文章


●Scene:01 むかしむかし、

 むかしむかし。
 空を見上げればそこには城が浮かんでいました。
 古の天空王国アーウィス。世のあまねくを見守る役目を持つ王国の主、翼持つ姫君ヒワは、今日も空の高みから地上の営みを見守っておりました。
 空は青く、雲は白く、鳥は歌を歌います。
 鳥の声にあわせて、ヒワも歌を歌います。
 それは約束の歌。ヒワすらも意味を覚えていない、けれど「約束」であることだけはわかる、うた。
 いつからでしょうか、ヒワはどこか胸の底にぽっかりと穴が空いたような気分でいました。城の人々は優しくて、鳥はいつだってヒワと一緒に歌を歌ってくれて、何一つ不自由なことはありません。
 なのに。なのに、何か大切なものが、たった一つ、欠けているような気がしていたのです。そして、欠けた何かの代わりに、自分でも何なのか思い出せない「約束」の歌が、口からこぼれおちるようになったのでした。
 それが何なのか、わからないまま、青空に、雨空に、星空に。天空の城はただよい、主たる姫君ヒワは歌を歌い続けておりました。そんな日々が、ずっと続くのだと思っておりました。
 しかし、ある日、その平穏は破られることになります。
 黄昏時。それは、何もかもの境目が曖昧になる、魔の刻限。
 音もなく、「それら」はやってきました。
 黄昏の空と同じ色をした、のっぺりとした影が、天空の城に押し寄せてきたのです。天空の城の兵隊たちは影を押し返そうとしますが、何せ相手は影なのです。剣も槍も、もちろん弓矢も効果がありません。
 黄昏色の影たちは何も語りません。けれど、目的が姫君ヒワであることは間違いのないことでした。迷うことなくヒワの部屋に滑り込んできた影たちは、ヒワをその黄昏色の腕で捕らえてしまいます。
 かくして、姫君ヒワは天空王国アーウィスから連れ去られてしまったのです。
 ヒワが連れられた先は、天空王国からも見えない地面の底。幾重にも連なる地下道の更に深く、深く、どこまでも深く降りていった、その終点に築かれた黄昏色の城でした。
 王の間に連れてこられたヒワは、やっと解放されました。ふかふかの、けれど天空のそれとは違う、ひんやりとした黄昏色の絨毯の上に転がされたヒワは、玉座に腰掛けている、黄昏色の影ではない一人の男――この城の王らしき人物をきっと見据えます。
 あなたは、誰?
 ヒワの問いかけに、黄昏色の外套を羽織った王は、唇を開きかけて、閉ざしました。同時に、不思議なことにヒワの頭の中に声が響きます。それは、氷のように冷たく、けれどどうしてでしょう、聞いている方が泣きたくなるような声音をしていました。
『僕は「桟敷城」の魔王ササゴイ。ようこそ、天空王国の姫君ヒワ』
 どうして、自分をさらったのか。ヒワがそう問いかけると、頭の中の声は答えます。
『僕は――してたんだ。――ずっと、ずっと』
 答えは、雑音に紛れて聞こえなくなってしまいました。もう一度問いかけようとしても、魔王ササゴイは応えません。そして、黄昏色の外套を翻して、声ではない声で語りかけてきます。
『僕を楽しませてくれたまえ、お姫様。そうしたら、僕は君を解放すると約束しよう』
 かくして、黄昏色の桟敷城に囚われた天空王国の姫君ヒワは、魔王ササゴイを楽しませるために日々頭を悩ませることになりました。天空王国から見える景色の話、地面の上を駆ける動物たちの話、鳥の歌の話。何もかも、何もかも、ヒワの話は魔王ササゴイにとっては面白くもなんともないもののようでした。ヒワを離してくれる様子はありません。それならば、とヒワが本で読んだ面白い物語を語っても、ササゴイは笑い顔一つ見せません。果たしてササゴイはどんなものを「楽しい」と感じるのでしょうか。ヒワは途方にくれてしまいました。それでもササゴイは『楽しませてくれ』というのです。冷たいのに何故か胸が苦しくなる声で。ヒワは、ヒワは――。
 
 
     *     *     *
 
 
「違う、違う違う違う、そうじゃない!」
 そうじゃない、ともう一度、口の中で呟いて、それから頭を抱える。
 そうじゃないのだとすれば、どうすればいいのだろう。
 どうすれば、あの人に、届くだろうか。
 体から力が抜けていく。あと少し。あと少しを望みながら、どうしたって届かない。わかっているのに、考えるのを止められない理由も、わかっている。
 約束をしたのだ。もう、お互いに叶わないかもしれない約束を。
 
「…………」
 
 口の中、ひとつ、呟くのは遠い日の名前。
 そして、彼女は――瞼を、閉じる。
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#桟敷城ショウ・マスト・ゴー・オン!

文章

うーんうーん、色々と悩みながら色々をしている!
もっといろんなことをして遊べたら嬉しいなあと思っているのだけれども。
とりあえず明日以降の自分に全てを託すことにする……!

作業

MIU404感想:5、6話(2回目)。
5話めちゃくちゃ胸が痛くなってしまうな……。
きちんとやってるところはやってるし、その一方でそうじゃないやつもいる、っていうのがね! えんえん……。
社会が抱えている問題であるだけに、個人の力ではどうにもならない部分も大きくて。
そう、そうなんだよ、「俺がごめんねって言っても~」っていう伊吹さんの言葉がね。それに対して「見えてないんだろ」って返す志摩さんとのやり取りがさーもうさー!
今回は、見えてなかったものに気づいてしまって、ずれてしまった世界に耐え切れなくなった人の話なんだな、ということを詰め込んでぶつけてきてめちゃくちゃつらい……つらいんだよ……。いつもそうではあるんだけど、今回は特に解決しても口の中に苦みが残るお話なのである。
だからこそ、最後のマイちゃんの笑顔にせめてもの希望を抱くわけなんだけれども。しあわせになってほしい……。もんじゃ焼きおいしいね。
あとやっぱりガマさんと伊吹さんのシーンぎゅってしちゃうね。ぎゅうぎゅうだよ。ぎゅう……。

6話~! あざらしは志摩さんが好きなのでこの話がとても好き!!(それ前も書いたでしょ!!)
志摩さんの「相棒殺し」の謎を伊吹さんが追い求めるっていう構図がとてもとても好き~!! 心の底からぎゃふんといわせてやるよ~!!
「どうせわかりませんよ、本当のことなんか」。6年もの間、本当のことを封じられ続けていたんだよね……志摩さん自身もまた延々と「そうしたかった自分=そうできなかった自分」を頭の中に繰り返しながら……。えーん……。
桔梗さんちに行く志摩さんというところもね……いいよね……! 桔梗さんちの志摩さんめちゃかわいいんだよ……。
ともあれ、伊吹さんときゅーちゃんという珍しいコンビで進んでいく話というのも好きだな! きゅーちゃんが伊吹さんに引きずられているようで、なんだかんだ自分から動いている(最初は伊吹さんに煽られたからなんだけど)、というところがラブ。
きゅーちゃんがどんどん成長していて、徐々に溶け込んでいる感じもして、この物語の中で「変化していく」役割を負っているのだなあとよくわかるんだよね! 志摩さんと伊吹さんは比較的あれで完成している二人であるから……。
あと香坂さんという人物が……香坂さん……この、ありとあらゆる状況に追いつめられた結果としての、暴走なんだけどさ。きゅーちゃんが「同じ状況になったら志摩さんに言えるかな」って言ってたのが印象的だよね。そこに陣馬さんがいてくれるから、きゅーちゃんはだいじょぶだなって思えるんだけど、香坂さんはそうではなかった。そして志摩さんもそれがわかってしまったから、今もなお後悔を続けている……。
ともあれ、これもオチがね~……。6年越しに明かされた真実、本当に偶然みたいなもんなんだけど、でもそれこそが光なんだよ。香坂さんは最後に自分の正義を貫いたし、志摩さんはそれを知ることができたということ……。ね……。
でもそれを知ることができたのはやっぱり伊吹さんが志摩さんとの出会いから今まで、そしてこれからに「人生」を感じてくれたからであって。人生とはまさしくスイッチの連続であることよ。畳む

映像

七夕が来るたびに思うんですけど、

カササギってサギの仲間じゃないんだ……。

ずっと勘違いしてたけどカササギはスズメ目カラス科であり。
白黒にブルーが混ざったすごくかわいい鳥なんですよね。
本当に調べるまで知らなかった私が通ります。カササギ……。
ちなみに漢字だと鵲と書きますね。鷺じゃない……ほんとだ……。

どうでもいいけど桟敷城のササゴイはサギの仲間です。ペリカン目サギ科ササゴイ属。

いま

今日もやっぱり何もできないうちに過ぎていきそうだな~。
まあ自分が何もしなくとも誰かに迷惑をかける類ではないので、それはだいじょぶなのだけれども。
早くいろいろ落ち着いてほしいの気持ちもあり、でも落ち着くということは環境ががらっと変わるということでもあるのだなあ。
ともあれ、今は夜に楽しみを固めてるので、昼間にも何か楽しみを作るのがよいかもな~なんだろな……。

いま